横浜市栄区は横浜市にある18行政区のひとつで、18区のうちの4区と鎌倉市に接しています。もともと相模国(さがみのくに)の郡のひとつである鎌倉郡の一部でした。鎌倉部は現在の栄区全域のほか、鎌倉市・戸塚区・泉区全域を含む柏尾川の流域を主な範囲としており、江の島周辺までが含まれていましたのでかなり広かったということが分かります。鎌倉郡の一部であったため、特に鎌倉時代には鎌倉幕府との関係が深く、この時代の史跡が多く残されています。
公田ジョウロ塚遺跡(くでんジョウロづかいせき)と人面把手(じんめんとって)
栄区の市街地から南側に見える山の上一帯がこの遺跡となっています。
現在は遺跡というイメージからは遠い状態になっていますが、ここから縄文土器が出土しています。
有名なものは「人面把手(顔面把手)」と呼ばれる土器の一部で、高さが16.5cmもある人間の頭部の形をしたものです。
首から下がないため、土器の一部に取り付けられていた把手(取手のこと)ではないかという説があります。
しかしこれが取り付けられていたとすると非常に大きな土器になるため、実は土偶ではないかともいわれています。
現在は横浜市中区の神奈川県立歴史博物館で展示されています。
http://ch.kanagawa-museum.jp/permanent-exhibition/ancient
田谷の洞窟(たやのどうくつ・定泉寺境内)
お寺がある地名が田谷であることから田谷の洞窟と呼ばれています。
正式名称は瑜伽洞(ゆがどう)といい、真言宗の定泉寺境内にある人工洞窟です。
鎌倉時代に真言密教の修行場として開かれたのが始まりと言われています。
何度か洞門の開閉が繰り返されましたが、昭和2年より一般公開されました。平成2年には横浜市登録地域文化財にも指定されています。
洞窟は定泉寺の裏手の地下にあります。地下3階まであり、全体として約10か所の広い空間とそれを結ぶ通路から成り立っています。
広間と通路の壁面や天井には
- 曼荼羅
- 十八羅漢
- 仏教説話
などが彫り込まれていますが、これらがそのままの姿を保っていられるのは、洞内にいくつもの水流があり適度な湿気があるからだと言われています。
途中、いくつも道が枝分かれしていますが、順路がきちんと表示されていますので迷うことはありません。
内部は一部崩壊しているところがありますが、全長は1キロ程度と推測されています。
洞内の気温は季節を問わず16度前後となっているため、訪れる際は上着を用意した方がいいかもしれません。
なお、入場には定泉寺の拝観料が必要で、受付でもらったろうそくを灯して入場するようになっています。
長尾城跡
長尾台の塁(ながおだいのるい)、長尾砦(ながおとりで)、長尾台城(ながおだいじょう)とも呼ばれる山城の跡地です。
関東管領上杉氏の家宰・長尾氏発祥の地と言われています。
跡地は横浜市と鎌倉市の境にある丘陵から北東向きに伸びる約900メートルの舌状台地に位置しています。
本城はその南端の「南の峰」と言われていますが、現在は住宅地となっていて城郭の位置ははっきりと分かっていません。
しかし、「南の峰」に向かう東西からの山道が城道だと考えられており、登り切ったあたりに土塁(土製の堤防状の壁)と虎口(こぐち・城郭の出入り口)が残されています。
なお、長尾景虎(のちの上杉謙信)はこの長尾家の分家筋にあたる越後長尾氏の出身です。
上郷深田遺跡(かみごうふかだいせき・深田製鉄遺跡)
古代の製鉄所の遺跡で、飛鳥時代から平安時代に作られたと推測されています。
以前から遺跡のある山で鉱石から金属を精錬するときに生じる物質(スラグ)が出土していたため、研究が行われていました。
その後横浜市の都市計画のからみで再調査が行われ、大規模な製鉄所の跡地だったことが判明します。
発見されたのは製鉄炉、青銅炉、竪穴住居などでしたが、短期間で調査をするのが難しい規模であり、道路工事で遺跡が破壊される恐れがないことから埋め戻されています。
現在では遺跡の姿を見ることはできませんが、すぐ近くに道路が通っているため遺跡が眠る場所のすぐそばまで行くことができます。
なお、こちらの遺跡の出土品も神奈川県立歴史博物館で展示されています。
横浜市栄区は縄文時代からの時間が流れる!栄区の「歴史」と「遺跡のその後」【神奈川県横浜市栄区】のまとめ
横浜市栄区にはこれ以外にも歴史上重要な遺跡が数多くありますが、上郷深田遺跡のように調査後に埋め立てられて道路や公園になっているものも少なくありません。残されたものが建物など小さなものではないため仕方がない一面もありますが、やはり残念だと思う方も多いのではないでしょうか?これらの発掘調査の記録は一般に公開されており、インターネットで閲覧できるようになっていますので興味のある方はぜひご覧ください。なお、田谷の洞窟だけは実際に見られます。JR大船駅よりバスで15分ほどですので、鎌倉散策のついでに足を延ばしてみてはいかがでしょうか?